「産まれてきてくれて、ありがとう」の後の展開が悲しすぎた。
エヌのお母さんであるアンジェリーナは、「自分の高すぎる記憶能力に殺されてしまう」という奇病を持つ娘のエヌを救う唯一の方法であると告げられて、ニケ改造手術をエヌに受けさせた。
機械の体に改造することで、エヌの記憶も機械的に制御可能となるため、記憶したものを毎日リセットし続けて脳へかかる負荷を軽くしてあげられるようになる、ということらしい。
その代わりエヌは、機械の体になったことで歳を重ねて大人になることもできず、記憶をリセットされ続けて同じ状態を永遠に繰り返し続ける。
ニケは人間だったころの記憶を人格の形成や維持に必要な分だけ、ある程度は残してもらってはいるものの、身内や親しい人たちの記憶はニケのメンタルを崩してしまう可能性が高いため、調整時にぼかされたり削除されたりする。
なのでエヌも自分に母親がいたことは覚えていても、アンジェリーナが自分の母親であるという記憶は持っていない。
なので、アンジェリーナが自分はエヌの母親であると必死に伝えたが、次の日にはリセットされてエヌの中ではまた他人に戻ってしまう。
そんなやりとりを繰り返し続けることにアンジェリーナは精神的に疲れてしまい、治療費を捻出するために寝る間も惜しんではたらくことで、エヌと顔を合わせないようにしていた。
……っていう経緯の母子をクリスマスに引き合わせる、というお話だったわけですが、色々と考えさせられるお話でした。
アンジェリーナが「産まれてきてくれて、ありがとう」と言いながら、エヌを抱きしめるシーンの後にクリスマスの奇跡は終わり、結局エヌの記憶はリセットされてアンジェリーナは悲しい思いをしてしまう、という終わり方となっていて、これをハッピーエンドと考えていいのか、バッドエンドと捉えるべきなのか、かなり悩ましかったです。
エヌの「お母さんにあってみたい」という願いは叶ったわけですし、アンジェリーナも久々に娘ときちんと向き合って会話ができたっていうポジティブな見方もできるとは思うんですけども、エヌはこのクリスマス期間中のやりとりを全て忘れてしまいますし、アンジェリーナの心も救われることは無かった。
「誰が、何を得たのだろう?」と考えると非常に複雑です。
アンジェリーナはエヌと再会したことを良かったと思えたのか。
最後は泣き崩れて終わるという終わり方だったけれども、出会えたことに関してはよかったと思っていたのであれば、このお話はハッピーエンドなのかな?とは思いました。
願わくばそうであってほしいです。
「産まれてきてくれて、ありがとう」って、心からそう思っての言葉なのだろうけど、色々と複雑な思いも詰まっているような気がします。
放り出して逃げて距離を置くようなことをして、ごめんなさいという気持ちを、ありったけのポジティブな言葉に変えて伝えようとしたのかもしれない。
この母娘の境遇から考えると、アンジェリーナはこの言葉をエヌに向かって口にするのは相当につらいと思う。
普通は言葉に詰まって、言い出せないんじゃないかなあ。
結局、泣き崩れた後の描写って言うのは一切言及されないので、読み手の想像に委ねられているんですよね。
もし、このお話の続きが描かれるのだとしたら、ポジティブな展開を是非ご用意いただきたいです。
ただでさえ可哀想な境遇の母娘ですので、これ以上鞭で打つようなことはしないで上げてほしい。
という感じで、考えさせられるいいお話でした。
本当に面白かったです。